書評:島本理生「ナラタージュ」

予告通り,島本理生「ナラタージュ」を読みました.

ナラタージュとは,映画などで主人公が回想の形で過去の出来事を物語ること.

「この恋愛小説がすごい!2006年版」1位,2006年本屋大賞6位と様々なところで評判.泣けると話題だったので涙もろいことで有名な私も号泣する準備はできていた.のですが…

泣けませんでした.いや評判になり売れる本だと思うし,悪くはないのですが…

ストーリーはこう.

大学2年生の春、泉に高校の演劇部の葉山先生から電話がかかってくる.高校時代、片思いをしていた先生の電話に泉は思わずときめく.だが、用件は後輩のために卒業公演に参加してくれないか、という誘いだった.「それだけですか?」という問いにしばらく間があいた.

「ひさしぶりに君とゆっくり話がしたいと思ったんだ」

ということで先生といろいろある,公演の練習をする中で知り合った仲間といろいろあるというストーリー.雑にまとめすぎですか.

島本理生の本は刊行されているものはすべて読みました.文章はものすごく綺麗.風景描写は上手いし,若い女性の微妙な心情を描く筆力があります.「瑞々しい」という表現がぴったり.筆致を抑えて淡々と描写するスタイルは,同世代作家・綿矢りさ(最新作は読んでないけど)が口語調の独特の表現を好むのと対極的かなと思います.

その一方,全作品を通じて,

1.世界観が狭い(若い女性の視点に限定される)
2.ストーリー展開が限定される(トラウマ,家庭のトラブルが頻出する)

という批判もしなくてはならないでしょう.これらは作家として経験を積むうちに解消されるかもしれませんが,でも若いときに若々しい(もしくは荒々しい)作品を描かなかったら歳取ってからどうするんだろう?といらぬ心配をしてしまいます.

「ナラタージュ」でも同様で…「不器用だからこそ、ただ純粋で激しく狂おしい恋愛小説.」の評判通り,若さゆえの純粋さ,恋愛における苦しさを上手く描いています.一方で,登場する男性があまりに類型的(テンプレート)で,簡単に言うとキャラクターとしての魅力が薄い.何故この相手でないといけないのか,どうしてこの人が好きなのか,私にはいまいち分かりませんでした.

「何故?」が最後まで分からなかったので,ちょっと消化不良.「一生に一度しか巡り合えない究極の恋」というコピーに期待しすぎたかも.

Wikipediaによると彼女の主な支持層が10〜20代ということです.それはそれで納得するのですが,20代だったら誰もが一度はこういう辛い恋愛を経験しているんじゃないかな.

一方,ただ好きなだけではやっていけない30代.少なくとも30代の私は,結局何をしたいのか分からない,意思も明確に示さない登場人物(主に主人公)に共感できませんでした.

彼女の作品ならば「ナラタージュ」より「一千一秒の日々」のがオススメ.淡々とした変化のない文章に飽きる向きには,描写短編小説向きの作家と言えるかもしれません.

2006年12月01日 23:11 | URL | コメント (0) | トラックバック (0) | 書評・読書

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