書評:東野圭吾『秘密』

別冊宝島『僕たちの好きな東野圭吾』を読んで読みたくなったので,『秘密』購入.

秘密 (文春文庫)
秘密 (文春文庫)

東野圭吾を何冊も読んでいる割に本書を敬遠していた理由は,感動大作のように扱われていたのをなんとなく敬遠していたこと.さらに蘇り系はちょっとな...という感じ.ところが読んでみると,感動作というより,人間の,特に夫婦の機微が上手く描かれているのに感心しました.やはり著者は人間ドラマが上手いです.

本書のあらすじは以下.

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な"秘密"の生活が始まった。

事故に愛する人の死.後の『手紙』を思わせる加害者家族の立場.『パラレルワールド・ラブストーリー』などに見られる心身の乖離.重いテーマではありますが,私にはどちらかといえば著者のユーモアを感じました.以下,『たぶん最後のご挨拶』より,本書について.

恋人の魂が幼い女の子の体に宿った場合,セックスはどうするのかというのが最初に浮かんだ疑問だった.


本書には,セックスに関する描写が多数あります.以下,娘・藻奈美(心は妻・直子)の台詞より.

「それがねえ,そういう気持ちに全然なれないの.そういうことを想像しても,なんだかピンとこないのよね.身体が反応しないというか」
「手とか口とかを使うっていう手もあるけど,やっぱりまずいわよねえ」
「ねえ」上目遣いをした.企みを打ち明ける顔だった.「手で抜いたげようか」

これらの下り,なんとなく笑いがこらえきれませんでした.妻の言葉に対する平介の反応が面白いです.

別にセックスに関することだけではないですが,ここに代表されるように平介にとって相手は妻なのか娘なのか,直子の視点では自分の立場は妻なのか娘なのか,そのような心神喪失が巧みに描かれていると思います.時にはブラックユーモアで,時にはホロリとさせられて.

いろいろな読み方ができる本書ですが,私は著者のユーモアを強く感じました.そういえば,著者にはもっとコメディとして描く構想もあったらしい.もちろん,最後の急展開は著者得意の辣腕ぶり.


近い路線では,『変身』も未読なので読んでみようかと思います.あと映画もね.


変身 (講談社文庫)
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秘密 [DVD]
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