書評:石田衣良『親指の恋人』

石田衣良の文庫新刊『親指の恋人』,読了.

親指の恋人〔文庫〕 (小学館文庫 い 30-1)
親指の恋人〔文庫〕 (小学館文庫 い 30-1)

イラストレーター中村佑介による表紙や挿絵がとにかく美しい.そして出会い系サイトで知り合う二人を「親指の恋人」と称するあたりは絶妙です.

裏表紙で現代版「ロミオとジュリエット」と評されたあらすじを書いてみます.

富豪の息子で大学生のスミオ(20)とパン工場で働く契約社員ジュリア(20)
→出会い系サイトで出会う
→恋に落ちてセクロスとかする
→いろいろある
→「絶望した!社会に絶望した!」
→出会って1ヶ月で心中(あぼーん)

心中という結論は,背表紙や帯,そして心中を伝える新聞記事から始まる作品なのでネタバレでもなんでもないと思います.

現代版「ロミオとジュリエット」というより,天下の石田衣良がケータイ小説を書いたらという雰囲気の作品かもしれません.ホストとの恋とかエイズとかレイプとかガシ!ボカ!スイーツ(笑)はないけれど,親子関係など不幸話満載ですし.

オチはすでに分かっているので,心中にいたるプロセスを愉しむ,あるいは共感する作品なんだと思います.本書のイラストを務めた中村佑介による解説より.

また,余談ですが,あなたが男性なら澄雄,女性ならジュリアに感情移入して,この作品を読まれたことでしょう.

ごめんなさい,彼らより一回り上の33歳である私はどちらにも感情移入できませんでした.強いて言えば,交際を反対する澄雄の父親に共感しました.大人になってしまったのかなぁ.

別に格差社会を肯定する訳ではなく,皆それぞれ立場があって,若い頃に経験した辛いこともいつかは笑えるという意味です.若すぎた恋を嘆く必要はない.いつか笑える日が来ると思います.30過ぎるとたいていのことは笑って振り返ることができる.今微妙にいいこと言いました.


石田衣良という人は,小説の全体もしく前提はさておき,ワンシーンの描写にすごくリアリティを持っていると思います.たとえばセックスの描写はすごく上手.全体的に寓話っぽい話でもシーン単位では説得力を持っていると思います.上手い切り取り方をする人.

そんな彼でも,やっぱり寓話的というか…30歳過ぎた私としては,「知り合って1ヶ月かそこらで心中するのか」「何故そこまで社会に絶望するのか」といった説得力を感じることができませんでした.若い人にとってそこまで絶望的な世の中なのかな…大人になると意外と楽しいことが多いと思うんですけどね.


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